環境省の調査によると、2025年度4月から10月までに全国で捕獲されたクマの数が9800頭余りとなり、過去最多を記録したことが明らかになった。人里への出没増加を背景に、捕獲数の増加傾向が続いている。
クマの捕獲数増加は、単なる個体数の問題ではなく、人間と野生動物の生活圏が重なり合う「境界領域」の拡大を意味している。里山の荒廃や過疎化により、かつて人間が管理していた緩衝地帯が失われつつある。この状況は、クマだけでなくイノシシやシカなど他の野生動物にも共通する課題である。
捕獲数の増加には、気候変動による食糧環境の変化も影響している。ドングリなどの凶作年にはクマが餌を求めて人里に降りてくる頻度が高まる。また、温暖化により冬眠時期が変化し、活動期間が延びている可能性も指摘されている。
地域コミュニティの高齢化も見逃せない要因である。かつては地域住民が里山を管理し、野生動物との適切な距離を保っていた。しかし人口減少と高齢化により、そうした伝統的な知恵や管理体制が失われつつある。
捕獲という対症療法だけでは根本的な解決にはならない。生息地の保全、緩衝地帯の整備、地域住民への教育など、総合的なアプローチが求められている。欧米では「ワイルドライフ・マネジメント」として体系化された取り組みが進んでいる。
日本でも一部地域では、クマの行動をGPSで追跡し、出没予測システムを構築する試みが始まっている。テクノロジーと伝統知を組み合わせた新しい共生モデルの構築が期待される。同時に、クマを含む生態系全体の価値を再評価する視点も必要だろう。
この問題は、私たち人間の暮らし方そのものを問い直す機会でもある。便利さを追求した結果として自然との距離が広がり、今その代償を払っている。持続可能な社会を実現するために、野生動物との共生は避けて通れない課題である。