南海トラフ「事前復興」6割未着手の衝撃—計画策定が命を救う理由

NHKの調査により、南海トラフ巨大地震で深刻な津波被害が想定される自治体のうち6割余りが、「事前復興まちづくり計画」の策定作業に着手できていないことが2026年に判明した。専門家は計画策定のプロセス自体に大きな価値があると指摘しているが、多くの自治体で準備が進まない現実が浮き彫りになっている。

事前復興計画とは、災害が発生する前に復興後のまちづくりビジョンを描いておく取り組みである。被災後の混乱の中で場当たり的な対応をするのではなく、平時から住民と議論を重ね、より良い復興の青写真を用意しておくことで、迅速かつ計画的な復興が可能になる。東日本大震災では事前の備えがなかったため、復興に時間がかかり、人口流出も加速したという苦い教訓がある。

自治体が着手できない背景には、人手不足や専門知識の欠如、そして「まだ起きていない災害」への優先順位の低さがある。日常業務に追われる中で、将来の不確実な災害への備えは後回しにされがちだ。しかし南海トラフ巨大地震は今後30年以内に70〜80%の確率で発生するとされ、「いつか」ではなく「いつ来てもおかしくない」脅威である。

計画策定プロセスには、住民参加のワークショップや専門家との協議が含まれる。このプロセス自体が、地域コミュニティの防災意識を高め、住民同士のつながりを強化する効果がある。災害時に最も重要なのは地域の絆であり、事前復興計画の議論を通じて育まれる信頼関係が、実際の被災時に大きな力となる。

先進的な自治体では、VR技術を活用した津波シミュレーションや、子どもたちも参加できる未来のまちづくりワークショップなど、工夫を凝らした取り組みが行われている。高知県黒潮町や静岡県吉田町など、被害想定が特に深刻な地域ほど、危機感を持って計画策定に取り組む傾向がある。こうした先行事例を共有し、ノウハウを横展開することが急務だ。

国や都道府県には、財政支援だけでなく、専門家の派遣や計画策定マニュアルの整備など、自治体を支える仕組みづくりが求められる。特に小規模自治体では独自に専門人材を確保することが難しいため、広域での連携体制や外部支援の活用が不可欠だ。事前復興は「贅沢な備え」ではなく、将来世代への責任である。

南海トラフ巨大地震は必ず来る。その時、事前復興計画があるかないかで、地域の未来は大きく変わる。今こそ、すべての自治体が「その日」を見据えた準備を始めるべきだ。計画策定の一歩一歩が、未来の命とコミュニティを守る礎となる。

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